
本場セボージャ・エンクルティダ(赤玉ねぎのピクルス)のレシピ
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セボージャ・エンクルティダは、薄切りの赤玉ねぎを柑橘の果汁と塩に漬けた、メキシコのピクルスです。ユカタン半島では、酸っぱいオレンジの果汁に、刻んだハバネロとオレガノを加えて漬けます。紫色の玉ねぎが、30分ほどで鮮やかなピンク色に変わります。
オレンジ色のコチニータ・ピビルのタコスに、このピンクの玉ねぎをのせるのが、ユカタンの定番です。火を使わず、切って混ぜておくだけ。酸っぱいオレンジが手に入らなくても、オレンジとライムの果汁で本場に近い味になります。
本場のセボージャ・エンクルティダとは
セボージャ(cebolla)はスペイン語で「玉ねぎ」、エンクルティダ(encurtida)は「漬けた」という意味です。「セボージャ・モラダ・クルティダ(漬けた紫玉ねぎ)」とも呼ばれます。
ユカタン半島では、紫玉ねぎの漬け物は、いろいろな料理の付け合わせになります。豚肉をアチョーテと柑橘に漬けて蒸し焼きにするコチニータ・ピビルのタコスやトルタ(サンドイッチ)、豆を詰めて揚げたトルティーヤに肉をのせるパヌーチョにも、紫玉ねぎをのせます。
ビターオレンジで漬ける
ユカタンのセボージャ・エンクルティダに欠かせないのが、「ナランハ・アグリア(酸っぱいオレンジ)」です。英語ではビターオレンジ、サワーオレンジと呼ばれます。学名はシトルス・アウランティウムで、日本のダイダイ(橙)と同じ種類です。ユカタン半島の地元紙「ポル・エスト」によると、原産はアジアですが、ユカタン半島ではどの土地でもよく育ち、マヤの村の家の裏庭でよく育てられています。コチニータ・ピビルや、酢漬けの煮込みエスカベチェにも使う、ユカタン料理の基本の材料です。
メキシコのレシピを2つ読み比べると、配合はほとんど同じです。
- エクセルシオール紙のレシピ:大きな紫玉ねぎ2個、ハバネロ2〜3本、ナランハ・アグリアの果汁3/4カップ、手でもんだ乾燥オレガノ小さじ1、塩小さじ1。室温で30分以上おきます
- クロニカ紙のレシピ:紫玉ねぎ1個、ハバネロ2本、ナランハ・アグリアの果汁1/4カップ、塩小さじ1/2、オレガノ小さじ1/4。ナランハ・アグリアが手に入らなければ、甘いオレンジとライムの果汁を同じ量ずつ混ぜて代わりにします
ハバネロを入れるユカタン式
ハバネロは、ユカタン半島を代表する、とても辛い唐辛子です。2つのレシピは、どちらもハバネロを一緒に漬けています。一方、アメリカの料理家リック・ベイレスは、ユカタンでは玉ねぎと一緒に漬けるより、ハバネロのサルサを別に添えることが多いと書いています。
紫玉ねぎとハバネロを、ナランハ・アグリアの果汁と塩で和えたサルサもあります。マヤの言葉で「犬の鼻づら」という意味の「シニペック(xnipec)」です。その辛さから付いた名前だとされます。トマトを加えることもあります。
玉ねぎの辛みを抜く「デスフレマール」
メキシコの料理には、「デスフレマール(desflemar)」という言葉があります。野菜などの辛み、ぬめり、強いにおいや味を抜くことです。メキシコの料理事典ラルース・コシーナによると、メキシコでは玉ねぎを、流水や熱い湯にさらしたり、酢やライム汁、ナランハ・アグリアに漬けたりして、辛みを抜きます。セボージャ・エンクルティダは、まさにこの方法です。
セボージャ・エンクルティダのレシピ:材料(作りやすい分量・約2カップ)
本場版(柑橘で漬ける)
ナランハ・アグリアの果汁の代わりに、オレンジ果汁とライム汁を同じ量ずつ混ぜています。ダイダイ(橙)の果汁が手に入れば、180mlをそのまま使います。
酢で作る家庭版
家庭版は、アメリカズ・テスト・キッチン(ATK)の熱い漬け汁で作る方法をもとに、砂糖を減らしています。柑橘がないときや、長く保存したいときに向いています。
道具
- ガラスかステンレスのボウル:酸に強い器で漬けます
- ふた付きのガラスの保存瓶:漬けたまま保存します
- 使い捨ての手袋:ハバネロを切るときに使います
- 小皿:玉ねぎを漬け汁に沈める重しにします
作り方
玉ねぎを切る
赤玉ねぎの皮をむき、縦半分に切る。繊維に沿って、厚さ3〜5mmの薄切りにする。
熱い湯にさらす(好みで)
ボウルに玉ねぎを入れ、湯気が立つくらいの熱い湯(給湯器の熱めの湯)をかぶるまで注ぎ、20分おいてざるにあげる。辛みをしっかり抜きたいときの手順で、ベイレスのレシピの方法です。生のシャキシャキ感を残したいときは省く。
ハバネロを刻む
手袋をつけて、ハバネロのへたを取る。辛さを抑えるなら、縦に切って白いわたと種を取り除く。細切りか、みじん切りにする。
合わせる
ボウルに玉ねぎとハバネロを入れ、オレンジ果汁、ライム汁、指でもんだオレガノ、塩を加えて、よく混ぜる。
漬ける
小皿をのせて玉ねぎを汁に沈め、室温で30分以上おく。玉ねぎが鮮やかなピンク色になり、しんなりしたら食べられる。時間があれば、ふたをして冷蔵庫で3〜4時間〜一晩おくと、味がよくなじむ。
酢で作る家庭版
玉ねぎを切る
本場版の手順1と同じように薄切りにし、ガラスの保存瓶かボウルに入れる。ハバネロを使うなら、刻んで加える。
漬け汁を沸かす
小鍋に酢、水、砂糖、塩を入れて強火にかけ、混ぜながら2〜3分、砂糖と塩が溶けるまで沸かす。
熱いうちに注ぐ
熱い漬け汁を玉ねぎに注ぎ、そのまま20分おいて冷ます。
冷蔵庫で漬ける
ふたをして冷蔵庫に入れ、8時間以上おく。全体がピンク色になり、中まで味がしみたら食べごろ。
料理科学:玉ねぎがピンクになり、辛みが抜ける理由
酸で色素アントシアニンが赤くなる
赤玉ねぎの紫色のもとは、「アントシアニン」という色素です。ぶどうの皮の色と同じ仲間で、赤玉ねぎにはシアニジンという種類のアントシアニンがおもに含まれています。
アントシアニンは、まわりの酸っぱさ(pH)によって色が変わる性質があります。酸性では赤く、中性に近づくと紫に、アルカリ性では青く変わります。紫キャベツの色も、同じアントシアニンの仲間です。ATKによると、アントシアニンはpH3前後かそれより酸性で赤くなり、pH4〜5では色がほとんど消えます。

手順5で、紫色だった玉ねぎがピンク色に変わるのは、ライムや酢の酸で、玉ねぎの中のアントシアニンが赤い形に変わるからです。くすんだ赤紫が、鮮やかなピンクになります。手順4で果汁をたっぷり使い、手順5で玉ねぎを汁に沈めておくのは、玉ねぎ全体に酸を行き渡らせて、まんべんなく色を変えるためです。
辛みのもとは、切ったときにできる
生の玉ねぎの細胞には、硫黄を含む成分と、「アリイナーゼ」という酵素が別々に入っています。包丁で切って細胞が壊れると、この2つが出会って反応し、揮発しやすい硫黄の成分ができます。これが、生の玉ねぎのツンとした辛みです。
料理科学者ハロルド・マギーは、切った玉ねぎを洗うよう勧めています。辛みの成分は切り口の表面に付いていて、水で洗い流せるからです。ATKが、切った玉ねぎを水や牛乳、酢に浸して比べたところ、効果が出るには15分ほど浸す必要がありました。手順2で熱い湯に20分さらすのは、この辛みを抜くためです。
ATKの実験では、酢に浸した玉ねぎは辛みがかなり抜けましたが、代わりに強い酸味がつきました。セボージャ・エンクルティダは、この酸味をそのまま味にする料理です。果汁に漬けるうちに、辛みが抜けて、さわやかな酸っぱさに置きかわります。
塩でしんなりして、味がなじむ
塩も、玉ねぎを変えます。野菜に塩をふると、表面に溶けた塩に引かれて、細胞の中の水が外へ出ていきます。これを「浸透圧」による脱水と呼びます。ATKによると、水が抜けると野菜の細胞が弱って、やわらかくなります。アメリカの料理誌ミルク・ストリートも、塩が玉ねぎの筋っぽい食感をやわらげ、とがった辛みをまろやかにするとしています。
手順5で30分ほどで玉ねぎがしんなりするのは、塩と酸で水が抜け、そのぶん漬け汁がしみ込むからです。ただし、漬ける時間が長くなるほど、玉ねぎはやわらかくなります。ベイレスは、漬けた玉ねぎは1か月以上もつものの、数週間で食感が崩れ始めると書いています。
塩で野菜から水を出す浸透圧の仕組みは、トマトと玉ねぎのサルサ、ピコ・デ・ガヨの記事でも紹介しています。
本場ピコ・デ・ガヨ(サルサ・メヒカーナ)のレシピ刻んだトマトと玉ねぎ、唐辛子、シラントロをライムと塩で和える、火を使わないメキシコのサルサ。塩でトマトの水を抜く浸透圧、玉ねぎの辛味の抜き方、唐辛子の辛さがわたにある理由を料理科学で解説します。
本場との違い
- ナランハ・アグリア:本場ではナランハ・アグリアの果汁で漬けます。日本では手に入りにくいので、オレンジ果汁とライム汁を同じ量ずつ混ぜています。メキシコのレシピでも紹介されている代わりの方法です。同じ種類のダイダイ(橙)の果汁なら、より本場に近くなります。
- ハバネロ:エクセルシオール紙やクロニカ紙のレシピのように、ハバネロを一緒に漬けるのがユカタン式です。辛さが苦手なら、ハバネロを入れずに漬けて、ハバネロのサルサを別に添えてもかまいません。
- オレガノ:ユカタンでは、地元のオレガノを使うこともあります。日本では普通の乾燥オレガノで作ります。
- 酢の家庭版:酢と砂糖の漬け汁で作るのは、アメリカの家庭の作り方です。柑橘で漬けるより酸味がまっすぐで、少し甘くなります。
食べ方
いちばんの定番は、コチニータ・ピビルのタコスです。温めたトルティーヤに、ほぐした豚肉をのせ、セボージャ・エンクルティダをたっぷりのせます。脂の多い肉に、酸っぱくて辛い玉ねぎがよく合います。漬け汁も少しかけると、肉がさっぱりします。
コチニータ・ピビルの作り方は、家庭のオーブンで作る方法を紹介しています。
家庭のオーブンで作るコチニータ・ピビルユカタン半島の本場のコチニータ・ピビルを、地中のかまどではなく家庭のオーブンで。アチョーテと柑橘に漬けた豚肩ロースをバナナの葉で包み、ダッチオーブンで蒸し焼きに。酸が届く深さ、色素ビキシンが油に溶ける理由を料理科学で解説します。
豚肉のタコスなら、どれにもよく合います。ほろほろのプルドポークや、ラードで煮たカルニタスにものせてみてください。
家庭のオーブンで作るプルドポークノースカロライナ東部の本場のプルドポークを、燻製器ではなく家庭のオーブンで。豚肩ロースを140℃で焼き、中心温度91〜96℃でほろほろに。ドライ・ブライン、コラーゲンのゼラチン化、ストールの理由を料理科学で解説します。
家庭のオーブンで作るカルニタス(メキシコ式)メキシコ・ミチョアカン州のカルニタスを、ダッチオーブンと家庭のオーブンで。豚肩ロースをラードで煮て、水分が飛んだら表面をカリッと仕上げます。水が温度にブレーキをかける仕組み、ラードの役割、オレンジや牛乳、コーラの効果を料理科学で解説します。
- パヌーチョやトスターダに:豆やほぐした肉をのせたトルティーヤに、玉ねぎを散らします。
- サラダや丼に:刻んでサラダに混ぜたり、肉をのせたご飯に添えたりしても合います。
保存
- 本場版:漬け汁ごとガラスの保存瓶に入れ、冷蔵庫で1週間程度。日がたつと玉ねぎがやわらかくなり、ハバネロの辛さが汁に移ります
- 家庭版:漬け汁ごと冷蔵庫で2週間程度
- 取り出すときは、清潔な箸やフォークを使います
もっと知りたい人へ
ユカタンのコチニータ・ピビルや紫玉ねぎの漬け物など、メキシコ各地の料理を本場の料理家から学びたい人にはこちら(英語)。
Rick Bayless's Mexican Kitchen(Amazon)
玉ねぎの辛みや野菜の色素など、食材の科学を詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。
マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)
出典
- Excélsior「Prepara una cochinita pibil desde cero: la receta tradicional yucateca」
- Crónica「Cómo preparar cochinita pibill」
- Por Esto!「Cómo preparar cochinita siguiendo la receta tradicional」
- Por Esto!「Naranja agria: El fruto ideal en la Península de Yucatán」
- Posta Yucatán「Las salsas yucatecas que debes probar al menos una vez en la vida」
- Chilango「Vocabulario de comida yucateca」
- El Diario NY「Cómo desflemar chiles, cebollas, nopales y otros vegetales」
- Rick Bayless「Pickled Red Onions (Cebollas Moradas Curtidas)」
- America's Test Kitchen「Pickled Red Onions」
- America's Test Kitchen「Toning Down Raw Onion's Bite」
- America's Test Kitchen「How to Salt Vegetables」
- Milk Street「How to Soften Raw Onions」
- Saveur「The Raw Appeal」
- Horst Donner「The anthocyanins of red onions, Allium cepa L: extraction, characterization, complexation and stabilization」University of Manitoba 修士論文(1998年)
- Chemistry LibreTexts「Indicators in Foods」
- BotanicalGarden「ダイダイ」
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。