黒い鋳鉄の鍋の中で、やわらかいバナナの葉の上にのった蒸し焼きのラム肉の塊。左奥にひよこ豆入りのコンソメの器と、積み重ねたトルティーヤ
タコスとメキシコ料理

家庭のオーブンで作るバルバコア(イダルゴ式)

地域
メキシコ中部(イダルゴ州)
分量
4人分
公開

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メキシコ中部のバルバコアは、羊の肉をマゲイ(リュウゼツラン)の葉で包み、地面に掘った穴で8〜10時間かけて蒸し焼きにする料理です。肉の下には容器を置き、落ちてくる肉汁を受け止めます。この汁にひよこ豆や米、唐辛子を入れて煮たスープが「コンソメ」です。週末の朝、ほろほろの羊肉をトルティーヤで包んだタコスと、熱いコンソメを一緒に味わいます。

家庭では、ダッチオーブンの底にコンソメの材料を入れ、その上に蒸し台を置いて、バナナの葉で包んだ羊の肩肉をのせます。ふたをして家庭のオーブンで4時間ほど蒸し焼きにすれば、肉は蒸気でやわらかくなり、下には肉汁の溶け込んだコンソメができあがります。

本場のバルバコアとは

バルバコア(barbacoa)は、地面の穴の中で肉をじっくり蒸し焼きにするメキシコの料理です。地中の窯で肉を焼く方法は、スペイン人が来る前からあり、メキシコ中部の先住民オトミの人たちなどが、シカや七面鳥を同じような窯で調理していたとされます。スペイン人が羊を持ち込んでから、羊肉がバルバコアの中心になりました。

アクトパンは「バルバコアのゆりかご」

羊のバルバコアの本場は、メキシコシティの北にあるイダルゴ州です。なかでも、メスキタル盆地の町アクトパンは「バルバコアのゆりかご」と呼ばれています。メキシコの新聞は、先住民の調理法とヨーロッパから来た羊が、この土地で出会って生まれた料理だと紹介しています。

アクトパンでは毎年7月に「バルバコア祭り」が開かれ、町や周りの村のバルバコア職人が味を競います。参加するのは毎年50人ほどです。同じ州のイシュミキルパンでも、「バルバコアとプルケの祭り」に40を超える作り手が集まります。プルケは、マゲイから採れる甘い樹液「アグアミエル」を発酵させたお酒で、バルバコアと一緒によく飲まれてきました。

イダルゴでは、バルバコアは週末の朝の料理です。メキシコシティにも、イダルゴ式のバルバコアを土曜と日曜だけ出す店があります。

地面の穴で8〜10時間

メキシコ消費者庁プロフェコの雑誌は、アクトパンで5代にわたって作り方を受け継いできた職人の仕事を紹介しています。その手順は、おおよそ次のとおりです。

  • 地面に穴を掘り、熱を逃がしにくいようにレンガで囲む
  • 薪と乾かしたマゲイの葉、石で火をおこし、穴と石を熱くする
  • 新しいマゲイの葉を穴の内側に敷き詰め、羊の肉をのせて、さらに葉で覆う
  • 穴をふさいで、8〜10時間かけて蒸し焼きにする

イダルゴの別の新聞は、熱した火山岩を使い、肉の下に汁を受ける容器を置くこと、肉は塩とスパイスで味をつけ、葉で包んで麻袋と土でふさぐことを伝えています。アクトパンの職人には、メスキートなどの薪を使う人もいます。

職人は、マゲイの葉を「バルバコアの真髄」と呼んでいます。葉は肉に香りと湿り気を与えます。マゲイは育つまでに8年ほどかかるので、葉は大切に使い回すそうです。

肉汁を受け止めて、コンソメにする

バルバコアのもうひとつの主役が、コンソメです。メキシコの情報サイトは、コンソメを「肉を蒸し焼きにしたときの汁から生まれるもの」と説明しています。

メキシコシティに宅配する穴焼きバルバコアの店は、深さ1.5m、直径2mの穴の底に、ひよこ豆、米、唐辛子、水を入れた容器を置き、その上にマゲイの葉で網を作って肉をのせると紹介しています。肉から落ちる汁が下の容器にたまり、ひと晩かけてスープになります。翌朝、穴を開けると、肉とコンソメが同時にできあがっているのです。

アクトパンの職人は、羊肉と一緒に「シンボ」という料理も穴で焼きます。鶏肉にノパル(ウチワサボテン)や豚の皮を詰め、マゲイの葉で包んだものです。

南テキサスのバルバコアとの違い

アメリカの南テキサスにも「バルバコア」がありますが、中身はかなり違います。

  • 肉:イダルゴは羊肉です。南テキサスは牛の頭で、今の店ではほほ肉を使うのが一般的です
  • コンソメ:イダルゴでは、肉の下で受けた汁をスープにして、肉と一緒に出します。南テキサスのバルバコアは、肉だけをタコスにするのが基本です
  • 包むもの:どちらも伝統的には、マゲイの葉と一緒に穴で蒸し焼きにします
  • 食べ方:どちらも週末の朝の料理で、トルティーヤで包んでタコスにします。イダルゴでは、コンソメとタコスが一組です

バルバコアのレシピ:材料(4人分)

バルバコア

  • ラム肩ロース(ブロック)(Amazon|楽天)1kg
  • 塩肉の重さの約1.2%12g
  • バナナの葉(Amazon|楽天)4〜5枚

羊の肩肉は、日本のスーパーではあまり見かけません。通販の精肉店で、ラムショルダーとして冷凍のブロックが売られています。

コンソメ

  • 水1L
  • ひよこ豆の水煮1缶(固形量約230g)
  • 米大さじ3(約40g)
  • にんじん1本(150g)
  • 玉ねぎ1/2個(100g)
  • にんにく3片(15g)
  • グアヒージョ(乾燥唐辛子)(Amazon|楽天)2本(約10g)
  • 塩小さじ1(6g)

一緒に食べるもの

  • コーントルティーヤ(15cm)(Amazon|楽天)16〜20枚
  • 玉ねぎ(みじん切り)1/2個(100g)
  • シラントロ(パクチー)(粗く刻む)1束(20g)
  • ライム2個(くし形切り)
  • サルサ・ロハ、またはサルサ・ベルデ1カップ(約250g)

道具

  • 鋳鉄のダッチオーブン(直径26cm前後、容量4.5L以上):ふたをしてオーブンに入れます(Amazon|楽天)
  • 蒸し台(脚付きの丸い網):肉をコンソメより上に置きます(Amazon|楽天)
  • アルミホイル:鍋とふたのすき間をふさぎます
  • トング、またはフォーク2本:肉を取り出してほぐします
  • 鋳鉄のスキレット:トルティーヤを温めます(Amazon|楽天)

蒸し台は、脚の高さが4cm以上あり、ダッチオーブンの底に平らに入る大きさのものを選びます。コンソメの水面より上に肉がくることが大切です。

作り方

  1. 解凍する

    冷凍のラム肩ロースは、冷蔵庫に移して24時間ほどかけて解凍する。

  2. 塩をする

    肉の水けをふき、厚さ5cmほどの3〜4切れに切る。表面の厚く硬い脂だけ少しそぎ、残りの脂は付けたままにする。塩12gを全体にすり込み、ラップをして冷蔵庫で2時間〜一晩おく。

  3. バナナの葉を用意する

    解凍したバナナの葉をさっと洗って水けをふく。何もひかないスキレットを中火で熱し、葉を数秒ずつ当てて、つやが出てやわらかくなるまで温める。

  4. オーブンを予熱する

    オーブンを170℃に予熱する。

  5. コンソメの材料を入れる

    グアヒージョのへたと種を取り、大きくちぎる。にんじんは2cm幅、玉ねぎはくし形に切る。ダッチオーブンに水、汁をきったひよこ豆、米、にんじん、玉ねぎ、にんにく、グアヒージョ、塩を入れ、コンロの強火で沸騰させる。

  6. 肉を包んでのせる

    火を止め、鍋の中に蒸し台を置く。バナナの葉を少しずつ重ねて蒸し台に広げ、肉をのせて、残りの葉でふんわりと包む。葉のすき間から肉汁が下に落ちるように、きっちり密閉しなくてよい。

  7. 鍋を閉じる

    鍋の口をアルミホイルで覆ってから、ふたをする。

  8. 蒸し焼きにする

    オーブンに入れ、3時間半〜4時間半蒸し焼きにする。2時間たったら一度ふたを開け、コンソメが最初の半分ほどに減っていれば、熱湯200mlを足す。フォークで押すと肉が抵抗なく崩れれば焼き上がり。硬さが残るときは、30分ずつ延ばす。

  9. 休ませる

    オーブンから出し、ふたをしたまま15分おく。

  10. 肉をほぐす

    肉を葉ごとバットに取り出す。葉を開き、肉を繊維に沿って大きめにほぐし、硬い膜や脂の塊を取り除く。乾かないように、コンソメを大さじ3ほど回しかける。

  11. コンソメを仕上げる

    蒸し台を取り出す。コンソメの表面に浮いた脂を、好みで半分ほどすくい取る。味をみて、塩で調える。濃すぎるときは湯でのばす。

  12. トルティーヤを温める

    スキレットを中火で熱し、トルティーヤを片面30秒〜1分ずつ温め、乾いた布巾に包む。

  13. 盛りつける

    コンソメを器に注ぎ、ひよこ豆と野菜を入れる。トルティーヤにバルバコアをのせ、玉ねぎ、シラントロ、サルサをのせて、ライムを搾る。

料理科学:蒸し焼きの熱と、羊の脂の香り

肉を汁につけない「蒸し焼き」

バルバコアは、肉を汁で煮る煮込みとは違います。アメリカの料理研究機関アメリカズ・テスト・キッチン(ATK)は、バルバコアを家庭で再現したとき、「バルバコアは煮込みではない」として、肉を汁から浮かせて蒸すことにしました。穴のバルバコアでも、肉はマゲイの葉の網の上にのっていて、下の汁には浸かっていません。

手順6で蒸し台を使うのは、この形を家庭の鍋で作るためです。肉は下のコンソメから立ちのぼる水蒸気で加熱されます。肉から出た汁は、葉のすき間から下へ落ちて、コンソメの味になります。肉を汁に沈めて煮ると、肉の味が汁に移りすぎますが、蒸し焼きなら、肉の味は肉に、落ちた汁の味はスープに、と分かれます。

蓋をする前の黒い鋳鉄の鍋を上から見たところ。唐辛子のペーストをすり込んだラム肉をバナナの葉で包み、脚付きのステンレスの蒸し台にのせてある。下にはひよこ豆と人参、乾燥唐辛子が入った赤いスープ

水蒸気は、乾いた空気よりよく熱を伝える

料理の加熱は、大きく「乾熱」と「湿熱」に分けられます。乾熱は、オーブンの熱い空気や炭火で焼く方法です。湿熱は、ゆでる、蒸す、煮るのように、水や水蒸気を通して熱を伝える方法です。

調理器具メーカーのアノーバは、水蒸気は乾いた空気よりもずっと効率よく熱を伝えると説明しています。水蒸気は、冷たい肉の表面に触れて水に戻るときに、たくさんの熱を肉に渡すからです。同じオーブンの中でも、ふたをして水蒸気で満たした鍋の中の肉は、乾いた熱い空気にさらされた肉より、むらなく熱が入ります。

乾いた熱い空気は、肉の表面から水分を奪います。オーブンで何時間も焼くと、表面が乾いて硬くなるのはこのためです。家電メーカーのエレクトロラックスは、蒸気で加熱すると食材からの水分の蒸発が抑えられ、たんぱく質がやわらかく仕上がるとしています。手順7でアルミホイルとふたで鍋を閉じるのも、水蒸気を逃がさないためです。

本場の穴も、じつは湿熱の窯です。熱い石の上に生のマゲイの葉を敷き、肉を包んで、麻袋と土でふさぎます。葉の水分と肉汁、下の容器の水が水蒸気になり、閉じた穴の中で肉を蒸し上げます。

長い時間の蒸気で、すじがゼラチンに変わる

羊の肩は、よく動く筋肉で、筋肉の束をまとめる硬いすじ(コラーゲン)が多い部位です。コラーゲンは、長い時間加熱すると、ほどけてやわらかいゼラチンに変わります。ATKも、長い時間蒸すことで肉の結合組織がゼラチンに変わり、バルバコアが十分にやわらかくなったとしています。

本場の穴では8〜10時間、家庭のオーブンでは170℃で4時間ほどかけるのは、このためです。コラーゲンがゼラチンに変わるには、温度だけでなく時間がかかります。肉が崩れるやわらかさになるまで、時間を延ばして待ちます。

羊の香りは、脂の中にある

羊肉には、牛や豚にはない独特の香りがあります。ATKによると、この香りのもとは主に脂で、なかでも「分岐脂肪酸」という種類の脂肪酸です。羊の胃の中の微生物が作るもので、量はわずかでも、ごく少しでにおいを感じる成分です。羊肉の分岐脂肪酸は、ほかのどの肉よりずっと多いことが分かっています。

オーストラリアの研究では、羊の脂に含まれる2種類の分岐脂肪酸、4-メチルオクタン酸と4-エチルオクタン酸が多いほど、焼いた羊肉のにおいの好みの点数が下がりました。牧草で育った羊には、スカトールという成分による「牧場のような」香りも加わります。

ATKの試食では、赤身だけの羊肉より、脂を混ぜた羊肉のほうが、羊らしい味が強いと評価されました。脂の多い肩やすねは羊らしい味が強く、脂の少ないロースは甘くおだやかな味になります。手順2で脂を少し残すのは、羊らしい香りを残すためです。においが気になる人は、脂を多めにそぎます。

蒸し焼きの間に溶けた羊の脂は、肉汁と一緒に下のコンソメに落ちます。コンソメが羊の香りの濃いスープになるのはこのためです。手順11で浮いた脂をすくう量を変えれば、香りの強さを好みに合わせられます。

コラーゲンがゼラチンに変わる温度と時間は、こちらの記事で詳しく解説しています。

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本場との違い

  • 加熱の方法:本場は地面の穴で熱した石と薪を使い、8〜10時間蒸し焼きにします。家庭版はダッチオーブンに入れて、170℃のオーブンで蒸し焼きにします。どちらも閉じた空間で水蒸気が肉を加熱する湿熱の料理なので、肉の食感は近くなります。ただし、穴で焼いたときのような薪の香りはつきません。
  • マゲイの葉:マゲイの葉は日本では手に入らないので、バナナの葉で包みます。メキシコの料理サイトのレシピにも、マゲイの葉の代わりに、軽くあぶったバナナの葉を使い、蒸し器で5時間蒸す作り方があります。
  • 肉の部位:メキシコの家庭向けのレシピでは、背中の肉がついたあばら肉と、肩の赤身(マシサ)を合わせて使います。ここでは、通販で手に入りやすいラムの肩肉だけで作ります。
  • 時間:本場の穴はひと晩がかりですが、家庭版は4時間ほどで、肉がほぐれるやわらかさになります。

同じように地面の穴で蒸し焼きにしてきた、南テキサスのバルバコアは、牛ほほ肉で作ります。イダルゴの羊のバルバコアとの違いを、ぜひ作り比べてみてください。

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食べ方

イダルゴでは、バルバコアのタコスと一緒に、熱いコンソメを飲みます。コンソメには、好みで刻んだ玉ねぎや唐辛子を入れ、ライムを搾ります。タコスは、刻み玉ねぎとシラントロに、辛いサルサをのせるのが定番です。

素焼きの器に入った赤茶色のコンソメ。ひよこ豆、ご飯、角切りの人参が入っている。右にほぐしたラム肉のタコス2つ、刻んだ玉ねぎと香菜の小鉢、ライム

  • サルサ:イダルゴでは、パシージャという乾燥唐辛子と、プルケを使った「サルサ・ボラチャ(酔っぱらいのサルサ)」も定番です。プルケは日本では手に入りにくいので、赤や緑のサルサを合わせます。
  • トルティーヤ:トルティーヤ1枚に、バルバコアを大さじ2〜3(40〜50g)ほどのせます。

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保存

  • バルバコア:ほぐした肉にコンソメを少しかけて保存容器に入れ、冷蔵で3日程度。冷凍なら1か月程度
  • コンソメ:冷蔵で3日程度。冷えると表面の脂が白く固まるので、取り除くとさっぱりします。米とひよこ豆は時間がたつと汁を吸うので、温め直すときに湯を足します
  • 温め直すときは、肉にコンソメか水を少し足し、ふたをして弱火か電子レンジで温めます

もっと知りたい人へ

肉のコラーゲンが加熱で変わる仕組みや、湿熱と乾熱の違いを詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。

マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)

メキシコ各地のバルバコアをはじめ、本場の家庭料理を学びたい人には、メキシコ料理研究の第一人者ダイアナ・ケネディの本がおすすめです。

ダイアナ・ケネディ『The Essential Cuisines of Mexico』(Amazon|楽天)

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。