
本場ブリトー(メキシコ北部)のレシピ
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ブリトーは、小麦粉のトルティーヤで煮込みの具を巻いた、メキシコ北部の料理です。本場チワワ州のブリトーは、アメリカの大きなブリトーとはまるで違います。具は豆と煮込みの1〜2種類だけ。ソースもチーズもかけず、細く巻いて手で持って食べます。国境の町シウダー・フアレスでは、屋台や食堂で毎日たくさんの煮込みが用意され、好きな具を選んで巻いてもらいます。
ここで作るのは、豚肉とじゃがいもを乾燥唐辛子のソースで煮た「チレ・コロラド」のブリトーです。トルティーヤは市販品で、煮込みはコンロの鍋ひとつで作れます。おいしく巻くコツは、トルティーヤを巻く直前に温めることです。
本場のブリトーとは
ブリトー(burrito)は、スペイン語で「小さなロバ」という意味です。メキシコのメディアは、ブリトーを「メキシコ北部で生まれた料理」と紹介しています。アメリカの料理と思われがちですが、もとは北部の農民や労働者、カウボーイが食べていた、安くておなかにたまる庶民の食事でした。
名前の由来と、ロバの伝説
よく知られているのは、メキシコ革命のころの伝説です。シウダー・フアレスのベジャ・ビスタ地区で、フアン・メンデスという人がロバに荷を積んで食べ物を売っていました。料理が冷めないように、大きな手作りの小麦粉トルティーヤで包んでいたので、人々はそれを「ブリトー」と呼ぶようになった、という話です。
ただし、これは伝説に近い話とされています。革命より前の19世紀末に出た『メキシコ語法辞典』にも、すでに「ブリトー」の言葉が載っているからです。辞典の説明は「肉などを中に入れて巻いたトルティーヤ」でした。名前の由来も、荷物を背負ったロバの姿に似ているから、ロバが運ぶ巻いた毛布に似ているから、などの説があり、はっきりしません。
スペイン語の料理事典『エル・ペケーニョ・ラルース・ガストロノミック』は、ブリトーの生まれをシウダー・フアレスとしています。シウダー・フアレス自治大学の研究者は、生まれた場所がどこであっても、ブリトーはこの町の食の一部になったと話しています。働く女性が増えるにつれて、ブリトーは町のファストフードとして広まりました。
具は「ギサード」、煮込みのおかず
チワワ州のブリトーの具は「ギサード(guisado)」と呼ばれる煮込みや炒め物です。州都チワワ市の店や、チワワ風のレシピには、次のような具が登場します。
- デスエブラーダ:ゆでて細く裂いた牛肉を、トマトや唐辛子と煮たもの。赤、緑、チポトレ味などがあります
- チレ・コロラド:赤い乾燥唐辛子のソースで肉を煮たもの
- マチャカ:味をつけて干した牛肉を、もどしてたたき、細かくほぐしたもの。卵と炒める「マチャカ・コン・ウエボ」も定番です
- チチャロン:豚の皮の揚げ物を、緑のサルサなどで煮たもの
- チレ・レジェーノ:チーズを詰めた唐辛子の衣揚げ
- フリホーレス・コン・ケソ:豆と、よく溶ける白いチーズ
メキシコの旅行メディアは、よいブリトーには「よい小麦粉のトルティーヤ、質のよい具、よく味付けした豆、きちんとしたサルサ」が必要だとしています。トルティーヤにまず豆を塗り、その上に煮込みをのせて巻くのが基本の形です。
隣のソノラ州では、唐辛子の煮込みや、マチャカのサルサ煮、マチャカと卵のブリトーがよく食べられます。州都エルモシージョには、手から脇の下まで届くほど大きな小麦粉トルティーヤで作る「ブロ・ノルテーニョ・ペルチェロン」という巨大なブリトーもあります。この名前にもあるように、ソノラでは大きなブリトーを「ブロ(ロバ)」と呼ぶこともあります。

小麦粉のトルティーヤは北部の主食
メキシコの主食は、もともとトウモロコシのトルティーヤです。小麦は、16世紀にスペイン人が持ち込みました。北部のソノラには1542年に小麦の栽培が伝わりました。砕いた小麦に水とラード、塩を混ぜた生地を、トウモロコシのトルティーヤをまねて薄く焼いたのが、小麦粉のトルティーヤの始まりといわれています。
今も小麦粉のトルティーヤは、ソノラ、チワワ、ヌエボ・レオン、バハ・カリフォルニアなど北部の州でよく食べられています。ソノラの伝統的な「ソバケラ」は、直径50〜60cmにもなる、大きく薄いトルティーヤです。チワワ州では、生地にベーキングパウダーを加えて、焼くと膨らむトルティーヤを作ります。
テキサスのスマザード・ブリトーとの違い
アメリカのテキサス州には、同じ「ブリトー」の名前で、まったく別の料理があります。テックスメックスの「スマザード・ブリトー」です。違いは次のとおりです。
- 具の数:メキシコ北部は、豆と煮込みの1〜2種類だけ。テキサスは、牛肉の煮込み、豆、ご飯、チーズなどをまとめて巻きます
- 大きさ:メキシコ北部は細く巻き、片手で持てる大きさ。テキサスは太く大きく巻きます
- ソースとチーズ:メキシコ北部は何もかけません。テキサスは、チリグレイビーという赤いソースと溶けるチーズをかけて、オーブンで焼きます
- 食べ方:メキシコ北部は手で持って食べます。テキサスはお皿にのせ、ナイフとフォークで食べます
メキシコ北部のブリトーは、温かい具をトルティーヤで包んで持ち運ぶための料理です。テキサスのスマザード・ブリトーは、ソースとチーズの焼き色を楽しむ、お皿の料理です。
ブリトーのレシピ:材料(8本・4人分)
チレ・コロラド(豚肉の赤唐辛子煮込み)
チワワ州のレシピでは、「チレ・コロラド(赤い唐辛子)」と呼ばれる赤い乾燥唐辛子を使い、手に入らなければグアヒージョで代えてよいとしています。ここでは、日本でも買えるグアヒージョを主にして、甘い香りのアンチョを少し加えます。鶏ガラスープは、顆粒のスープの素を溶かしたものでかまいません。
豆
巻く
添えるもの(好みで)
- サルサ・ロハ、またはサルサ・ベルデ
道具
- 厚手の鍋、またはダッチオーブン(直径20〜24cm):煮込みを作ります(Amazon|楽天)
- 鋳鉄のスキレット:唐辛子を焼き、トルティーヤを温めます(Amazon|楽天)
- ミキサー、またはハンディブレンダー:唐辛子をソースにします(Amazon|楽天)
- 目の細かいざる:ソースをこします
- トルティーヤウォーマー、または清潔な布巾:温めたトルティーヤを包みます(Amazon|楽天)
作り方
肉に塩をする
豚肉を1.5〜2cm角に切り、塩6gをまぶす。ラップをして冷蔵庫で30分〜一晩おく。
唐辛子を焼く
唐辛子のへたと種、白いわたを取り、平らに開く。何もひかないスキレットを中火で熱し、唐辛子を押しつけるようにして片面10〜15秒ずつ焼く。香りが立ち、色が少し濃くなれば十分。黒く焦がさない。
唐辛子を戻す
焼いた唐辛子をボウルに入れ、熱湯400mlを注いで皿で押さえ、20〜30分おいてやわらかくする。
ソースを作る
唐辛子を戻し汁ごとミキサーに入れ、にんにく、クミン、オレガノを加えてなめらかになるまで回す。目の細かいざるでこし、皮のかけらを除く。
肉を焼く
鍋にラードを中火〜強火で熱し、肉の水けをふいて重ならないように入れる。全体に焼き色がつくまで5〜7分焼く。多ければ2回に分ける。
ソースを炒める
中火にして、4のソースを鍋に加える。焦げないように混ぜながら3〜5分炒め、色が濃くなって少しもったりしたら、鶏ガラスープを注ぐ。
煮込む
沸騰したら弱火にし、ふたを少しずらしてのせ、ふつふつと静かに煮立つくらいで30分煮る。その間に、じゃがいもの皮をむいて2cm角に切り、水にさらす。
じゃがいもを加える
じゃがいもの水けをきって鍋に加え、さらに20〜30分煮る。豚肉がやわらかくなり、じゃがいもに竹串がすっと通り、ソースが具にからむくらいに煮詰まれば完成。水分が多ければふたを取って煮詰める。塩と黒こしょうで味を調える。
豆を温める
リフライドビーンズを小鍋に入れ、弱火で温める。かたければ水を大さじ1〜2加えて、塗りやすいかたさにのばす。
トルティーヤを温める
何もひかないスキレットを中火で熱し、トルティーヤを1枚ずつ片面15〜20秒ずつ、やわらかくなって所々がぷくっと膨らむまで温める。焼き色をつけるほど焼かない。温めたらすぐにトルティーヤウォーマーか布巾に包む。
巻く
トルティーヤを広げ、中央より手前にリフライドビーンズを大さじ2(約30g)、横長に塗る。その上にチレ・コロラドを約100g、細長くのせる。手前をかぶせて具を押さえ、左右を内側に折りたたんで、向こう側へきつめに巻く。
包んで食べる
巻き終わりを下にして置き、アルミホイルか布巾で包む。冷めないうちに、手で持って食べる。
料理科学:トルティーヤが破れずに巻ける理由
グルテンの網が、薄い生地を支える
小麦粉のトルティーヤが、薄いのにたっぷりの具を包んでも破れないのは、「グルテン」のおかげです。小麦粉に水を加えてこねると、小麦のたんぱく質のグルテニンが互いにつながり、もうひとつのたんぱく質グリアジンと組み合わさって、目に見えないほど細かい網ができます。これがグルテンです。グルテンの網は、生地に弾力と伸びを与えます。
トウモロコシのトルティーヤには、グルテンがありません。小さく折ってタコスにするにはちょうどよくても、大きな具を巻いて持ち歩くと割れてしまいます。北部の人たちが、煮込みを包んで運ぶのに小麦粉のトルティーヤを使ってきたのは、理にかなっています。
テキサスA&M大学の研究チームは、トルティーヤの生地の中のグルテンを酵素で切ったり、逆に太くつなげたりして比べました。どちらも、トルティーヤがしなやかさを保てる期間が短くなりました。研究者たちは、しなやかなトルティーヤには「むらなく広がった、ほどよく強いグルテンの網」が必要だとしています。
冷えたトルティーヤが割れるのは、でんぷんが固まるから
ところが、袋から出したばかりの冷たいトルティーヤを巻こうとすると、ひびが入ったり、端から裂けたりします。グルテンの網があっても、割れるのはなぜでしょうか。
原因は、生地の大部分をしめるでんぷんです。トルティーヤを焼くと、でんぷんは水を抱えてやわらかくなります。冷めて時間がたつと、でんぷんの分子が並び直して、結晶のように固まっていきます。これを「でんぷんの老化」といいます。パンが時間とともにかたくなるのと同じ現象です。
同じ研究チームの論文は、保存中にでんぷんのアミロペクチンという成分が固まってでんぷんの粒をかたくし、それがグルテンの動きを妨げて、トルティーヤがかたくなると説明しています。でんぷんの老化は、凍らない程度の低い温度でいちばん速く進みます。冷蔵庫から出したトルティーヤが特に割れやすいのは、このためです。
温めると、でんぷんがほどけてしなやかに戻る
老化したでんぷんの結晶は、水分の多くを中に閉じ込めたままです。そのため、温め直すと結晶がほどけて、でんぷんがもう一度水を抱え、やわらかさが戻ります。アメリカの料理研究機関アメリカズ・テスト・キッチン(ATK)は、かたくなったパンも、およそ60℃まで温めればやわらかく戻るとしています。手順10で、巻く直前にトルティーヤを温めるのはこのためです。

ただし、温めすぎは逆効果です。スキレットで長く焼くと、表面の水分が飛んで、トルティーヤがパリパリにかたくなってしまいます。焼き色をつける必要はありません。片面15〜20秒ほど、生地がやわらかくなって、ところどころぷくっと膨らめば十分です。
温めたら、すぐに巻いて包む
温めて戻ったでんぷんは、冷めると焼きたてのときよりも早く、また固まり始めます。ATKも、温め直したパンのやわらかさは数時間しか続かないとしています。
手順10で温めたトルティーヤをすぐに布巾で包むのは、冷めるのを遅らせ、表面が乾いて割れるのを防ぐためです。温かい煮込みを巻いてアルミホイルや布で包めば、具の熱と湯気でトルティーヤがしなやかなまま保たれます。料理が冷めないように大きなトルティーヤで包んだ、というロバの伝説のブリトー売りのやり方は、料理科学から見ても理にかなっています。
本場との違い
- 唐辛子:チワワ州では、地元で「チレ・コロラド」と呼ばれる赤い乾燥唐辛子を使います。日本では手に入りにくいので、チワワ州のレシピでも代わりに使えるとされているグアヒージョを主にしました。メキシコの消費者庁プロフェコのレシピのように、グアヒージョにアンチョやパシージャを合わせる作り方もあります。
- トルティーヤ:本場の店は、北部で作られる薄い小麦粉トルティーヤを使います。日本では、通販で買える10インチ(約25cm)の市販品を使い、1本あたりの具の量を合わせています。
- 豆:チワワ州のレシピでは、煮た豆を煮汁と一緒になめらかにし、ラードで炒めて味をなじませます。ここでは手軽な缶詰を使っています。
- 具:チレ・コロラドはたくさんある具のひとつです。シウダー・フアレスやチワワ市の店では、毎日何種類もの煮込みが用意されます。
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食べ方
メキシコ北部のブリトーは、皿もナイフも使わずに、手で持って食べる料理です。もとは労働者や農民の食事で、ブラックコーヒーや炭酸飲料と一緒に食べられてきました。辛さがほしい人は、ひと口ごとにサルサを少しずつかけます。
- 1人2本が目安:細めに巻いたブリトーを、2本ずつ食べるくらいがちょうどよい量です。
- 具を変えて:同じトルティーヤと豆で、ほかの煮込みを巻いて食べ比べるのも、本場の店らしい楽しみ方です。
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保存
- チレ・コロラド:冷蔵で3日程度。冷凍なら1か月程度。じゃがいもは冷凍すると食感が変わるので、冷凍するときは肉とソースだけにしておくのがおすすめです
- 巻いたブリトー:1本ずつラップで包み、冷凍用の袋に入れて冷凍で1か月程度。凍ったままアルミホイルで包み、180℃のオーブンで20〜25分温めます
- 残ったトルティーヤ:でんぷんの老化は冷蔵庫の温度で速く進むので、使わない分は冷凍します。使うときは常温で解凍し、スキレットで温めてから巻きます
もっと知りたい人へ
でんぷんの老化やグルテンなど、パンや生地の中で起きていることを詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。
マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)
メキシコ各地の家庭料理を、本場の作り方で学びたい人には、メキシコ料理研究の第一人者ダイアナ・ケネディの本がおすすめです。
ダイアナ・ケネディ『The Essential Cuisines of Mexico』(Amazon|楽天)
出典
- El Financiero「El origen de los burritos: sabor norteño que traspasó fronteras hasta el Super Bowl」
- México Desconocido「Los burritos: un platillo que sí es mexicano」
- México Desconocido「Burritos de Chihuahua」
- Escapadas by México Desconocido「Dónde comer burritos en Chihuahua」
- Posta「Así puedes hacer burritos chihuahuenses por menos de 100 pesos según Profeco」
- Gastrolab「Este lugar de burritos en la CDMX trae todo el sabor de Chihuahua」
- México Desconocido「Historia de las tortillas de harina, producto mexicano que va por 500 años de existencia」
- Luz Noticias「¿De dónde son originarias las tortillas de harina? Esto sabemos」
- Luz Noticias「Tortilla sobaquera: ¿por qué se le llama así a este manjar de Sonora?」
- Alviola、Waniska、Rooney「Role of Gluten in Flour Tortilla Staling」Cereal Chemistry 85巻(2008年)
- Alviola「Roles of carbohydrates and proteins in the staling of wheat flour tortilla」テキサスA&M大学 博士論文(2009年)
- America's Test Kitchen「How to Revive Stale Bread」
- The Dallas Morning News「D-FW Sabores」シリーズ、ダラスのフアレス式ブリトーの店の記事(2025年3月22日)
- Wikipedia「Machaca」
- Wikipedia「Staling」
- Wikipedia「Gluten」
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。